世界的スプリンターになるために

1. はじめに

 こんにちは。一年ぶりの投稿になりますが、皆さんお元気でしょうか。

 私は世界選手権出場、来年の世界選手権に向けた準備など、一年が矢のように過ぎていきました。そして気づいたら、去年の投稿からちょうど1年が経ちました。去年の記事を改めて読み返してみましたが、ずいぶんかっこつけたことを書いていたなと思います(笑)。まだの人はぜひ読んでみてください。世界で戦う最後の2年間を全力で駆け抜ける覚悟を決めた!、と豪語した私はそれからの365日を全力で駆け抜けられたのかを振り返ってみようと思います。

2. 去年決めた目標

 目標や覚悟を決めても、それを計る指標がないと意味がありません。まず私が去年掲げた目標を振り返り、それぞれについてどのようなアプローチをとり、どういった結果となったかを振り返ってみます。

 まず、大目標が二つあります。

  • 2022年世界選手権スプリント1桁順位
  • 2022年世界選手権ノックアウトスプリント決勝進出

 大目標を踏まえ、2021年の目標は以下に設定しました。

  • 3000m 9分切り
  • 5000m 15分30秒切り(最低15.45切り)
  • ハーフマラソン 75分切り
  • 世界選手権予選 巡行 105切り
  • 世界選手権 決勝進出

 昨年の記事で書いた通り、5000m14分台を2022年に達成します。そのためには、3000m8.45以内も必要になります。今年は、まず3000m9分の壁、5000m15分台の壁、その先の15.30の壁を破ることを念頭に置きました。また、ハーフマラソンにおいては70分切りの野望があるので、まずは75分以内を達成しようと考えました。
 世界選手権では、予選通過が現実的なラインとなる巡行105切り、決勝出場を設定しました。
 目標を踏まえ、私がどのようなアプローチをとり、目標をどこまで達成できたかを、走力、国際大会の2点から見ていきます。

3. 走力

 走力の目標は以下の3つです。

  • 3000m 9分切り
  • 5000m 15分30秒切り(最低15.45切り)
  • ハーフマラソン 75分切り

 結果は次のようになりました。

  • 3000m 8.56
  • 5000m 15.27
  • ハーフマラソン DNF

 3つ中2つは達成です。
 これまで行った取り組みを軽く振り返ってみましょう。

仲間と一緒に強くなる-日曜ロングランナー結成-
 今年、圧倒的な成長を目指すトレーニングチームができました。まず、強くなるためには一人で頑張れなければいけません。一方で、一緒に頑張る仲間がいるとトレーニングが楽しくなります。仲間が強くなり、ライバルになると自分の成長につながります。さらに応援する選手がいると、大会観戦もより楽しくなります。いいことづくめですね。そんなこともあり、市川市民の橘選手、早稲田の後輩入江、森清選手、最近加入の市川市民奥村選手と共に「日曜ロングランナー」を結成しました。
 活動はいたってシンプル。「みんなで楽しく走って遠征して圧倒的成長!」です。今年は合同トレーニングだけでなく、スプリント合宿、ハーフマラソン合宿、大会遠征、懇親会など思ってみれば色々やりました。某ウイルスの影響で大会などがなくなる中、皆でモチベーションを保ちながら楽しくトレーニングできたのはとてもよかったなと思っています。
 話を戻すと、仲間と一緒にトレをする中で大切にしていることがありました。それは、合わせないことです。合同トレをしているとどうしてもレベル差が出ます。その際、無理にペースや距離を合わせようとすると、お互いにストレスが溜まります。そのため、私たちはつけなくなったら遠慮なく切り離して最後に合流など、それぞれが自分のペースで高めていく方式をとっていました。こうすることで、早く走れる人は自分の強度を確保でき、ついていけない人もトレーニング仲間に気を使わせる必要がなくなります。合同トレーニングは一緒にその場にいることが大事かなと思うので、それなりにうまくいっているのかなと考えています。
 まだこれらの活動が実を結んだかはわかりませんが、それぞれの選手が国際大会、全日本、インカレで成長を実感できているのはとてもうれしいです。

基礎走力を上げる
 走力目標を達成できた要因はいくつもあると思いますが、中でもジョグは一番大きなウェイトを占めているでしょう。数年前、根本選手がカレンダーで書いていたかと思いますが、トレーニングにおいて基礎的なジョグはすごく大切です。この一年、もちろんワークアウトなどは積極的にやってきましたが、ここで書く価値があるのはジョグの重要性だと思います。効果はググったり、根本選手の記事を読めばわかるので、ここではこの一年で私が感じたことを書いていきます。
①自分の体調、レベルがわかる

 普段は、早いジョグ(まあまあしんどいくらい)、普通のジョグ(楽だけどフォームは崩さない)の二つを行っています。自分のペースに一応の目安はありますが、体調や気候、コースによって変わります。従って、普段は主観的強度を重視しています。
 主観的強度を意識すると、自分の体調やレベルがわかるようになります。日々トレーニングを行うと、自分の状態が微妙に違うことに気づきます。ある時は思ったよりペースが速く、ある時は体が重く、筋肉の張りを感じたりします。自分の体の状態の変化に敏感になれるのです。例えば、私はジョグが遅くなっている時は睡眠を長くとり、筋肉の張りを感じたら早めに対処します。ジョグで気づいた体の状態への対応が、一年大きな怪我無く継続的に練習が続けられた理由だと考えています。また、ジョグのペースを一年単位で見ると、自分のペースが変化していることに気づきます。例えば、同じ強度のジョグがキロタイム10秒程度早くなっていることがあります。主観的強度により、自分の成長が確認できるのです。
②ワークアウトの効果が向上

 次に、ジョグを積み重ねるとワークアウトの効果が上がります。インターバルなどのワークアウトは、皆さんも取り組んでいることでしょう。しかし、ワークアウトが練習の大半では伸び悩みます。少なくとも私はそうでした。そこで、私は年単位で継続してジョグを行い、レース前に集中して質の高いワークアウトを取り入れました。その結果、練習ごとに明らかに体のキレが増していくのを実感し、今年は自己ベストを3度更新できました。これを読んでいるオリエンティアの方は、だまされたと思ってまずは継続してジョグを行ってみてください。
③暑さ、寒さに強い体になる

 最後に、ジョグは寒暖に強い体を作ります。今年の夏は、意識して昼間に練習を取り入れました。特に30度を超えた高湿度の環境で練習を続けました。もちろん体への負荷は半端なく、睡眠時間は伸び、内臓疲労と夏中戦いました。しかし、3週間ほどジョグを続けると、暑い環境でも走れるようになります。また、暑さが落ち着くと一気に早くなります。炎天下のジョグはリスクを伴うのでお勧めはしませんが、継続して取り組むと寒暖に耐えられる体になり、有酸素能力の大幅な向上を可能にするそうです(体験談)。

 早くなるためにやることは地味です。目標達成のためには、トレーニングを楽しめる環境を作り、地味なことを怪我無く継続することが大切だと気づいた一年でした。

4. 国際大会

 国際大会は、チェコで開催された世界選手権、デンマークで開催されたトレーニングキャンプに行きました。それぞれについて競技の結果と気付いたことを書いていきます。
①世界選手権
・Sprint qualification: Disq
・Sprint Relay: 21位
 目標達成はできませんでした。完全に実力不足です。
 世界選手権出場に当たって、私は走力的な目標を達成できていたので、ただ出場するだけにはならないだろうと思って臨みました。現地では、トレーニングは短い時間で集中して行い、かつ体のキレを失わないようにトラックトレーニングなども取り入れながら調整していました。概ねこの調整はうまくいったと思います。
 スプリント予選は、城跡のようなところで開催されました。いい写真がなかったですがこんな感じです。久しぶりの国際大会ということもあり、思ったより緊張していたのかもしれません。結果は8番を飛ばしての失格でした。

 ランニングはある程度自分の力を出せたと思います。しかし、上コースの10番まで見られるような細かいスプリントへの対応力は身に着けていませんでした。方向転換が多くナビゲーションに負荷がかかる上、ルートチョイスが必要なコースへの対応力は、今後の世界選手権で戦う上で身につけなければいけないスキルだと実感しました。
 スプリントリレーは、1走で大きく出遅れてしまいましたが、2走として最低限の走りはできたと思います。トップ+2.35はおおむね走力+技術差です。世界選手権で自分の力を出し、今後の成長に向けた糧が得られたのはよかったです。
 世界選手権を通じて、上で書いたこと以外に二つの課題が出てきました。
 一つはランニングテクニックです。国際大会に出て一番実感するのは、不整地や細かい所での走力差です。私は前述した程度の走力を持ったうえで世界選手権に臨んでいるので、アスファルトなどの地面ではそこまで大きな差をつけられません。しかし、芝生や斜面、切り返し、カーブや階段などスプリント特有の場面でことごとく差をつけられていました。それぞれの場面での1秒の躊躇、1%の減速が順位を大きく変動させるのだと実感しました。
 二つ目は、不確実性への対応力です。スプリント予選は8を飛ばして失格になりましたが、その前の7をとる段階で人にぶつかりそうになっていました。その時のわずかな動揺がそれまでの集中の糸を切り、私を9に向かわせました。このケースに限らず、国際大会は不測の事態の連続です。私が3回出場したJWOCスプリント全てでDisqだったのも、不測の事態や気持ちの変化に耐えられなかったからでしょう。
 これらの課題は、日本でやっていてももちろん気づくことができます。しかし、本当の弱点は、国際大会や、日本でいう全日本やインカレのような入念に準備し、高いレベルでのパフォーマンスが求められる場面でこそ表面化します。世界選手権の結果はもちろん満足のいくものではありません。しかし、世界選手権を通じて上記の課題が見つかり、さらなる成長につなげることができるので、来年はさらに強くなった私が見られるでしょう。
②デンマーク遠征
 10月はデンマークに遠征しました。後輩の入江選手と仲良く二人で遠征です。実は二人合宿は2回目で前回は菅平、今回はデンマークでした。遠征のあれこれは入江選手が書きたいと思うので割愛します(笑)
 デンマーク遠征は、翌年の世界選手権に向けて、スプリントを集中して取り組み課題を明らかにする、自分の実力を確認する意図をもって計画しました。トレーニングキャンプはかなりタフで、レース含めて1週間で110㎞くらいは走りました。最後のほうは疲れ果てていましたが、何とか二人とも大きな怪我無く最後まで質を維持しながらこなしきれました。
 トレーニングキャンプを通じて、世界の選手との本当の差、及び自分たちの強みを知ることができました。世界選手権は、レース1本にすべてをかけて臨みます。逆に言うとその一本ですべてが終わってしまい、世界レベルに達するために必要なことを考察することや、スプリントの練習を集中して行うことはできません。一方今回のキャンプは、YannickやKris Jones選手など、世界の超一流選手や、次世代を担うであろう私たちが目標にできるような選手も参加していました。彼らと反省をし、レースを通じて間近に走りを感じることで、次のレベルへの道筋を考えることができました。
 特に遠征で得たものは2点あります。
 一つは、連戦を経験し、体の状態の変化と対処法を知れたことです。キャンプでは、水曜日にノックアウトスプリントを1日4レース、木曜日にスプリントリレー、土日で5レース全力で走りました。体へのダメージはかなり大きく、日曜日は体のキレが明らかに悪かったです。しかし、世界選手権は連戦が続きます。来年私がスプリントで決勝まで走り、ノックアウトスプリントで決勝進出したら6レース走ります。キャンプでこのスケジュールを経験したことで、4日で6レースを全力で走り切るための調整、及び体力、精神的準備を一年かけて具体的なイメージをもって行えるようになりました。
 二つ目は、実力が上の選手と並走する機会が非常に多く、スピード感、オリエンテーリングテクニックを具体的に知れたことです。私は動画などで選手の動きを研究することはよくありますが、実際に走ってみないとスピード感や技術は分かりません。特に、フラッグ周り、ナビゲーションによるふらつき、スピードの出し入れなどを競り合いながら(後ろからのほうが多かったですがw)体感できたのは、来年の世界選手権に向けて大きなプラスになりました。

まとめ

 一年の軌跡を書こうと思ったらかなりざっくばらんに書いてしまいました。こうやって書いてみると、1年は短いなと思います。毎日走り、世界選手権、トレーニングキャンプに出場したら1年が過ぎていました。気づくともう私の残りの競技人生は半年程度。振り返ってみましたが、この一年は妥協なく頑張れていたと思えます。少なくともトレーニングは一度もさぼらなかったので。こういえるのも、今の環境が恵まれているからだと思います。年を重ねると、自分の夢を追うのがどんどん難しくなると日々実感します。様々な人に応援してもらい、競技に打ち込む時間を与えてもらい、他にあったであろう人生をあきらめてオリエンテーリングに打ち込んでいるんだなと、ふつふつ感じます。毎日感謝の気持ちを持ち続けるのは難しいと思いますが、結果を出そうとする姿や、来年の国際大会の結果でその恩を返していきます。明日もがんばります。

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