世界的スプリンターになるために

1.はじめに
 こんにちは。日曜日のAdvent Calendar担当の尾崎弘和です。
 今日はインカレスプリントですね。これを書いているのはその前なので、一緒に練習してきた後輩がどういう結果を残すか楽しみな時です。自分のレースだけでなく、最近は誰かのレースの結果を見るのも楽しいと思えるようになりました(笑)
 以前もちょこちょこ書かせてもらっていますが、今回は極めて個人的でコアな内容なので、裏でこそこそやらせてもらえればなと思います。
 一応自己紹介をさせていただきます。私は麻布高校、早稲田大学とオリエンテーリングを続けて、今は人生の半分以上オリエンテーリングをしています。所属はトータスと京葉オリエンテーリングクラブです。オリエンテーリングのほかにもオリエンティア軍団でスカイランニングを楽しんでいます。皆さんYoutubeを見て高評価、チャンネル登録よろしくお願いします(笑)

https://www.youtube.com/channel/UCzgDObEdDlm6Nc3EbdqpLXw
 
話がそれました。競技成績も少し紹介しますね。全日本はスプリント1回、ロング2回優勝しています。アジア選手権はスプリント、リレー2回優勝しています。アジアでは割と早いオリエンティアかなと思っています。
 今回何を書こうかというと、自分の競技の一つのゴール地点についてです。私も気づけば29歳になり、多方面から様々なプレッシャーがかかってくるようになりました。思い返してみると、自分の世界選手権での結果は20代前半と大差なく、所謂停滞を続けている状況です。何が言いたいかというと、こんな中途半端な取り組みで、自分の人生を浪費していいかということです。このまま大した成功も収めず、世界に挑んだ名もなきオリエンティアとして競技者を終えるのもいいかもしれません。ただ若い今しかできない世界との戦いで、何か足跡を残して競技者としての一線を退きたいと考えるようになりました。そこで今回は、私の大きな目標である「世界的スプリンター」への挑戦を書いていこうと思います。

2.目標
 目標はこの二つです。

1.2022年世界選手権スプリント1桁順位
2.2022年世界選手権ノックアウトスプリント決勝進出

 見ただけじゃよくわかりませんね(笑)少し説明を加えます。
 まず、スプリント1桁は、当然過去に達成者は誰もいません。道筋を知っている日本人は誰もいません。要するにすごい世界です。ちなみに日本人男子は直近10年誰も決勝に進出していません。
 ノックアウトスプリント決勝はさらにシビアです。オリエンテーリング中のキロタイムは3分フラットになります。さらに選手との駆け引き、ラストスパートの戦いを制さなければいけません。オリエンテーリング力だけでなく、陸上のラストスパート力、駆け引きも身につけなければ太刀打ちできない世界です。リンクを貼っておくので詳細は動画をご覧ください。


 
私自身、この世界をまだ言葉で説明することができませんが、人生の一部をオリエンテーリングに捧げて目指す価値のある目標だと考えています。次に、目標達成までの道のりを考えていきます。

3.目標の世界
 ここでは、目標達成に必要な能力について考えていきます。
 まず走力です。
 WOC2018のトップ12を見てみます。

1 132 Daniel Hubmann 83 Switzerland 14:05,9 0:00,0
2 144 Tim Robertson 95 New Zealand 14:07,0 +0:01,1
3 129 Andreas Kyburz 88 Switzerland 14:26,0 +0:20,1
4 145 Yannick Michiels 91 Belgium 14:26,6 +0:20,7
5 134 Matthias Kyburz 90 Switzerland 14:28,4 +0:22,5
6 114 Emil Svensk 93 Sweden 14:28,5 +0:22,6
7 136 Andreu Blanes 91 Spain 14:29,3 +0:23,4
8 121 Martin Regborn 92 Sweden 14:34,8 +0:28,9
9 142 Artem Popov 91 Russian Federation 14:43,8 +0:37,9
10 135 Kristian Jones 91 Great Britain 14:44,7 +0:38,7
11 133 Vojtech Kral 88 Czech Republic 14:46,0 +0:40,1
12 143 Milos Nykodym 90 Czech Republic 14:46,6 +0:40,7

 この中で、走力がわかっている選手を見てみます。
 ベルギーのYannick選手、英国のKris選手は言わずと知れた超高速ランナーです。彼らは5000mを13分台で走ります。また、スイスのMatthias選手、チェコのVojtech選手,ニュージーランドのTim選手などは、5000m14分台の走力を持っています。スイスのDaniel, Andreas選手は、15分フラットです。スイスの選手のトラックタイムは、以下のサイトから確認できます。

https://trackmaxx.ch/results/?race=SOLV20-1
 
以上を総合すると、トップ10に入るためには少なくとも15分前半の走力、できれば14分台に乗せることが必要と分かります。
 次に、私が2019年に出場したワールドカップの巡航速度の視点から見てみます。スイスで行われたWC Finalでは巡航114、ノックアウトスプリント予選では113,中国では112となっています。つまり、私の巡航速度は113程度です。これは、トップ選手と私の5000mのタイムの比率とほぼ一致します。つまり、ここからも5000mのタイムを14分台に近づけることが目標達成の前提条件になることがわかります。
 また、個別にレッグを分析していくと、ショートレッグより、ロングレッグで大きなタイム差がついていることがわかりました。ロングレッグは、ショートレッグに比べて手続きの回数、スピードの出し入れなどが多くなります。したがってロングレッグの差を埋めるためには、ふらつきなどの手続きのクオリティの差、追い込みの差、不整地などの走りの差、スピードの差など細かい課題を解決しなければいけません。さらに、ロングレッグの差は巡航速度の差につながります。ここを改善すれば巡行を100%台にあげることができることが、同程度のショートレッグタイムで走る選手との比較から確認できます。技術的に見ても、改善しなければいけない点が多くあることがわかりました。
 また、一つのミスが大きいことも気になります。トップ選手は、平均して5秒以上のミスをしていません。一方私は、10秒以上のミスが複数あります。世界レベルのレースのミスは、日本でいうミスとはレベルが違います。ほんの少しの減速やふらつきがそのままミスタイムとして計上されるのです。そういった細かなミスに加え、5秒程度のミスをしてしまうと大きなタイム差につながります。これらをゼロに近づけることが順位を上げていく前提条件となります。
 スプリントの技術は、私自身今まで取り組み切れていなかったことでした。ここまで奥深いものだと考えられなかったからです。技術面で大きな差が出ていることが明らかになった以上、まだ見ぬ技術の高みを探っていかなければいけません。
 しかしながら、巡航速度は105を切れなければトップ10はあり得ません。走力、技術力の両輪で突き詰めていくのが世界への道筋になると思っています。

4.今までの取り組み
 ここまで述べてきたように、スプリントで勝つためには走れなければいけません。ただ目標は5000m14分台です。そう簡単に達成できる目標ではありません。そうなったとき、自分の取り組みを一から見直す必要がありました。ここでは、昨年度から取り組んできたことを軽く説明します。
 まず、スプリントに集中することを決断しました。今まで見てきたように、目標達成までの道のりは途方もないものです。特に私は足首に不安を抱えており、フォレストオリエンテーリングは常に怪我のリスクが付きまといます。そこで5000m14分台を目指して継続してトレーニングするために、森に入る機会を極力減らすことにしました。また、フォレストオリエンテーリングによる移動の時間と労力についても再考しました。フォレストオリエンテーリングを行う場合、東京からは最低片道2時間以上の移動が伴います。移動は、時間、体力、金銭的に大きな負担となります。その時間をトレーニングや平日のタスクに割り当てることで、継続してトレーニングする時間を確保することにしました。
 次に、トレーニングの方法を抜本的に見直しました。今までインターバルや日々のジョギング、補強などは継続的に取り組んでいたものの、計画性は特になく大きな向上はなかったです。実際2017年は3200㎞(390時間)、2018年は2700㎞(300時間)と、世界的に見てとてもトレーニングをしているとは言えませんでした。
そこで、よりトレーニングを計画的、合理的なものに変更しました。2019年はトレーニングを積むための土台作りを行いました。具体的には、ジョギングのペースアップ、ロング走の導入、週2回のインターバルなどです。2020年はオリエンテーリングを大きく減らし、ランニングに集中しました。具体的には、トレーニングのボリュームを上げると同時に補強にも取り組み、怪我を予防しながらトレーニングを積み重ねました。2020年は高い質を維持しながら4300㎞を超えることができ、5000m14分台に近づけているのを感じられる一年となりました。
 さらに、自分の目標に期限を設けました。今までは、目標はあるもののそれを目指して漫然とトレーニングをしている状態でした。そのため競技と私生活の優先順位をはっきりさせられず、停滞を招いてしまいました。そこで、自分の競技を2022年までと設定しました。そこまではオリエンテーリングをトッププライオリティとし、目標達成に全力を注ぐというものです。目標に期限を設けることで、今まで漫然と過ごしていた毎日がとても貴重なものに思え、トレーニングにより集中できるようになりました。また競技の優先順位がはっきりしており、現在の生活にも期限があるため、私生活との調整にも迷いがなくなりました。目標の設定の際は、必ず期限を設けることが大切だと感じています。

5.最後の2シーズン
 自分の世界への挑戦はあと2シーズンで終わります。最後の2シーズンを全力で駆け抜け、日本の誰も到達したことのない世界に到達するためにこれからどうするかを書いて終わりたいと思います。
 2021年は、世界との戦いの年と位置付けています。2020年をフィジカルの強化に充てることができたので、2021年はそれをオリエンテーリングに落とし込み、技術を高める年とします。技術の強化は、自分自身まだ道筋が見えていません。ここからどのようにしてスプリントのクオリティを高めていけるか考えていきます。また、来年は世界に出ます。ワールドカップ1レースは、国内レース1年分以上の収穫があります。来年度はレベルの高い国際レースに多く出場し、世界の中で戦える選手となります。
 2022年は最後の年です。悔いが残らないよう、世界選手権に向けてすべてのリソースを注いでトレーニングに励みます。

6. おわりに
 長々と書いていました。こうやって文章に起こしてみると、自分を振り返ることができるのでいいなと思いました。
 昔の自分はずいぶん悩んでいたんだなと前のブログを読んで思いました。何かを変えたいけど、どう変えればいいかわからない。これが一番つらいですね。モチベーション的にも当時が一番落ちていました。今は少し違います。当時より充実したトレーニングができていますし、トレーニングの目指す先も見えています。なぜそうなれたか考えていましたが、きっかけとして思い出されることは二つあります。
 一つ目は、後輩と飲みに行った時のことです。二次会で、言っていることとやっていることが全くあっていない、本気で世界を目指すならもっと走って、もっと真剣になれと言われたことです。確かにその通りだなと思いました。月250㎞程度しか走らず、大した計画性もなく、これで何ができるのだろうと考えました。絶対変わるはずがありません。特に後輩に事実をストレートに言われたことで、何かを変える、変えるために一歩を踏み出すきっかけになったと思います。
 二つ目は、先輩オリエンティアに言われたことです。そこでは、5000m15分45秒、ハーフ75分を達成しろと言われました。これも納得せざるを得ませんでした。いくら練習をしている、世界を目指していると言えども、数字を出せなければ何も意味がないです。ある陸上選手が言っていた、課程は誰も見ていない、結果を出さなければ意味がないという言葉もすごく心に響きます。このタイムはまだ達成できていません。心の中で通過しなければいけない最低ラインと思いながらトレーニングを積んできました。早く達成して次のステップに進みたいです。
 書いていて思いましたが、今の自分は充実しています。なぜなら自分には達成したい目標があり、かつ目標に向けて前進できていると思えているからです。2年後の世界選手権を走り終えたとき、悔いのない自分でいるために走り続けます。
 最後まで読んでいただきありがとうございました。一気に書いたので、内容が薄いかもしれませんが、もし興味を持っていただけましたら直接お話ししましょう。
 今後の私の競技生活、挑戦の結果に興味がありましたら、フォローしていただけたら嬉しいです。大会会場などで気軽に声をかけてください!